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アート・ディレクション新方向
「現代アート」と聞いてどんなイメージを持たれるでしょうか? 「美術館の白い空間の中に展示された作品を黙って鑑賞するもの」「難解そう」「近寄りがたい」と思っている人が多いと思います。でも、近年では、「現代アート」をもっと身近に、ダイレクトに感じてもらおうという試みも盛んに行われています。そのひとつが、建築や町、他ジャンルの作品とのコラボレーションです。
たとえば、アサヒビール大山崎山荘美術館。(http://www.asahibeer-oyamazaki.com/)同館は、大正初期から昭和にかけて大阪の事業家によって建てられた英国風山荘をほぼそのまま使っている本館と、安藤忠雄の設計によるモダンな新館から成り、本館には河井寛次郎やバーナード・リーチら「民芸運動」の作家達の陶芸作品を中心に展示、新館には、クロード・モネの「睡蓮」が常設展示されています。
これらの建築と収蔵作品をベースに、現在、活躍中のアーティストがコラボレーションを仕掛けていくユニークな企画シリーズが始まっています。今年6月4日〜9月1日には、彫刻家の須田悦弘が新館と旧館の双方に自作の木彫作品を展示しました。が、木彫といっても、須田が作るのは、本物そっくりの小さな雑草や木の葉、花など。旧館では、それらを窓枠の隙間や展示ケースの中など目立たないところに、ひっそりと設置したのです。
美術館を訪れた人達は、須田作品を探して館内を散策。普段なら、さっと通りすぎるだけのところにも長く留まり、いろんなものをじっくり見始めます。そのうちに、先人が創意工夫を凝らした建築の面白さ、民芸の陶器の味わい深さに気づいていきます。そして、須田の作った小さな植物を見つけた人のほとんどは、微笑み、他の人にもその喜びを分け与えようとします。館内には、見知らぬ人同士が観客同士のほのぼのとした交流が生まれていました。
一方、安藤忠雄が設計した個性的な新館の方では、建物の真ん中、天井の丸窓から降り注ぐ光の真下に木彫の睡蓮を設置。モネが描いた絵画の「睡蓮」と須田の本物そっくりの睡蓮が共鳴しあう空間となっていました。
これまでアサヒビール大山崎山荘美術館では、須田の他、サウンド・アーティストの藤本由紀夫、イタリア在住のインスタレーション作家・廣瀬智央が、同じくモネの「睡蓮」や建築と共演する展覧会を開いています。
 
アート周辺環境の共生〜コラボレーション
この試みの面白さは、ほぼ百年前に描かれたモネの絵画や、先人達の民芸運動の作品、美術館の建物、歴史、周囲の環境などを、現代アーティスト達がそれぞれの見方で解釈、再発見することから始まっていることです。そして、その成果が、展覧会という形になって多くの人に開かれているのです。観客は、完成した作品を見るだけでなく、アーティスト達の思考の痕跡をたどっていき、空間や物、歴史や環境に対する新しい意識を獲得していきます。楽しい驚きと共に。
同じような古美術や建築とのコラボレーションは、京都の細見美術館や大阪の萬野美術館で行われたり、集落内の廃屋を再建する直島コンテンポラリーアートミュージアムの「家プロジェクト」も有名です。また、家具工房をも持つ”grafギャラリー”では、現代アーティストの草間彌生の作品を家具として再解釈していく試みに挑戦しています。
 
現代芸術の魅力と新方向性
現代アートの魅力のひとつは、作品の完成度だけでなく、見る人の意識を新鮮なものに変換していく作用にあります。美術館やアーティストも、ただ作品を見せるだけでなく、積極的に観客と関わるような企画を打ち出しはじめています。「難解で近寄り難い」現代アートも、ずいぶん様子が変わってきたようです。
 
山下里加(美術ライター)

プロフィール
山下 里加(やました・りか)
1965年和歌山市生まれ。1989年京都教育大学特修美術科修了。学生時代は美術作品を作っていたが、情熱が湧かず、卒業と同時に4ヶ月の海外流浪へ。帰国後、大阪で就職情報誌の編集アルバイトに入る。編集プロダクションを経て、1998年独立。現在、『ぴあ』や『AERA』など一般雑誌に展覧会情報や美術と社会とのつながりについて執筆。他、インタビュー・ペーパー[Ai]の発行、アーティストブックの制作などに関わる。2002年4月より京都造形大学非常勤講師として「フィールドワーク」を担当する。



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