物質的に何不自由ないサラリーマンをしていたのが、いきなりロンドンの貧乏学生になって、「よく耐えられるね」とあちこちで言われたが、私の学生生活は幸福そのものだった。どれくらい幸せかというと、毎日バスで通学しながらニヤニヤと笑みがこぼれるくらいだ。または、心の中に大輪の牡丹がバーンと咲き乱れている感じといえばいいか。ロクなものは食べていないし、ロンドンの通りをベニヤ板を担いでスミマセンヨとよたよた歩いたり、確かにひどい生活といえばひどい生活だ。睡眠時間もずっと短くなった。でも学校に行けば美しいものが沢山あったから、いつも心は満たされていた。成果が模型やグラフィックとして目の前に物質としてリアルに立ち現れるのが、大企業の電子メールと電話会議のゲームに翻弄されていた自分には驚くほど幸せだったのだ。